Modern Life Is Rubbish

美しいもの。本、映画、音楽、そしてそのほか雑文

ミラン・クンデラ「存在の耐えられない軽さ」

圧倒的傑作。チェコスロバキアの自由化を危惧したソ連による占領・占領後の監視社会を背景にした男女4人の人生。
言葉・思念・哲学・政治・文化の洪水に浸る幸福な読書体験でした。
読書中、左脳と右脳の両方が刺激される感覚がしました。


ストーリー

ドンファンで医師の男、田舎娘、奔放な女性画家、真面目な学者の男。
4者4様の、人との関わり方のスタンス、価値観や哲学、その個人差等が要所要所で語られ、非常に読み応えがあります。
ドンファンと田舎娘の愛の結末は。4人は政治悪とどう向き合うのか。

主題

恋愛中心というよりは、4人の男女の人間同士の関わり合いや政治との向き合い方含む人生そのものを物語として進めながら
「軽さと重さはどちらが肯定的なものか」
キッチュ(ある集団が共有する、表面的には立派な、しかし実際は俗悪な、理想)なものへの嫌悪、またキッチュ全体主義政治と結びついた時にキッチュを侵害する事物全てが除去されてゆく」
という2つの主題を繰り返し描き、読後は政治悪が歴史上軽く扱われることへの著者の怒りのようなものが強く印象に残る作品。

文体

表現がふわっと雰囲気に頼る所なく、全てが的確。
フィッツジェラルド的甘美さやサリンジャー的隙間の美しさはなく、硬質な考察のような、時に論文のような文章。
だが刺さる。但し右脳だけでなく左脳右脳両方に刺さり、読んでると何となくピアノ弾く時のような感覚がしました。

作風

哲学的考察と、登場人物達の物語と、両方を織り交ぜながら小説は進みます。
以下、その哲学的で魅力的な書出しを引用しておきます。
永劫回帰という考えは秘密に包まれていて、ニーチェはその考えで自分以外の哲学者を困惑させた。
 我々が既に一度経験したことが何もかももう一度繰り返され、そしてその繰り返しがさらに際限なく繰り返されるであろうと考えるなんて!
 いったいこの狂った神話は何を言おうとしているのであろうか?」